宇宙こぼれ話

長尾 第8回 ロケット発射場の話(8)

「ロケット発射場の話(8)」

4. 射場施設・装置の特徴(続)

4-3給電給水などのインフラ・排気設備
 ロケット発射場にインフラ的に整備されるもので特徴のあるものとして、給電・給水系統があります。以下種子島宇宙センターの例ですが、自家発電、自前のダム・浄水設備があり、準備~打上げに至る全期間必要な電力、水の供給を確保しています。

・電力
 電力はかつては整備塔移動や大量の給水ポンプ用の大電力モーター起動時の電力などが規模を決める対象だったりしましたが、その後その手のものは内燃機関とか油圧駆動の方式が採用されるようになり、最近は大量の建物(特にロケットや宇宙機の大型化・複数並列整備化などで増大した)の空調や重要装置等に対する信頼性の高い給電が電力供給に対する要求のメインになっています。

・水
  水は通常の給水に加えて、特に安全確保のための消火用と、発射時のロケットエンジン排気ガス処理に必要な「冷却水」が特徴的なものです。

 消火用は、ロケットの発射時に何も起こらなければ使わなくてよいものですが、万が一事故・火災が起これば大量に必要になるのでその準備が必要です。また、射点の周辺には事前にスプリンクラー等で水を撒いておくこともやっています。出火有無確認はロケット発射直後の発射管制室側の最初の「仕事」にもなります。

 ロケットエンジン排気ガスは3千度の超音速流ですのでそこに大量の冷却水を注入したり、発射台上面に水を張っておいたりします。打上げにおいて必要なのはエンジン点火からリフトオフ後数秒までのほんの短秒時のことですが、水の方を先に出して正常に出ていることを確認してから発射を行う必要があるものは、その分かなりの量を使います。(「打上げにおいて・・」の他にも射点においてエンジンに点火したまま飛行しないで長秒時の燃焼試験を行うようなことにも対応できるようにします)

 正常な放水が確認できない場合は打上げを止めることもあります。また、別の理由で打ち上げ秒読みを一旦中断した後に再度やり直すこともあるため、その分も供給できるように準備しておく必要があります。

 大型ロケット発射場には射点に設置された圧力容器(タンク)内から急速に大流量の冷却水を供給するほか、両射点の間の位置に冷却水ポンプ用1750トン水槽(「発射場の話」初回の写真1-1の「第2射点」の右側に写っています)、消火用ポンプ室地下に500トン水槽、近くの高台に補充用タンク(合計1750トン)を設置しています。また打ち上げた後にはこれらで使用した水の「排水」が発生しますが、溜池などに回収し、必要に応じた処理・水質検査のうえ下流に排出するようになっています。(環境管理上射点だけでなく宇宙センター内で水を扱っているところで管理の必要な箇所については同じことをしています) 

・排気設備(煙道)
 ロケット打ち上げ時の高温高速の燃焼排気ガスの処理も工夫の対象になります。真下に出る下方に深い空間を持たせるとか偏向板等で横に抜くとかで、なるべく簡素で損傷の生じにくいものにする、ということの他に噴流が大きい音響の発生源になっていることへの配慮も考えます。前回までの発射台や下記の写真のロケットエンジン燃焼試験場にも同じように煙道の例がみられます。

(上記写真)ミューロケット発射管制室
イプシロンロケット発射管制室

エンジン燃焼試験設備の排気設備の例
(左;吉信第1段エンジン試験設備、右;旧(N~H-Ⅰ)ロケット第1段エンジン燃焼試験)

 また、前回にも少し触れましたが、内之浦宇宙空間観測所のイプシロンロケット用のものが次の写真で、この形状のものによって、ロケットの頭部に搭載されるペイロード(人工衛星)に与える音響振動のレベルを格段に減らすことに成功したものです。

内之浦宇宙空間観測所全景

イプシロンロケットの煙道(内之浦宇宙空間観測所)

 下の写真は竹崎の固体ロケット燃焼試験場です。横向きにロケットモータを置いて燃焼させ、高速・高温度の噴射ガスが下流の地面に当たるため下流側には耐熱コンクリートが貼られています。もちろん冷却水は吹き込みますが、噴流の流れに対して地面が平行に近くて加熱等の条件は楽になり、比較的少ない量の冷却水でも耐えられるので装置が大掛かりにならない利点があります。また、写真(2枚目)で分かりますが、噴流の数十m下流部分は地面に対して少し傾斜を付けてあって、噴煙がここで噴出方向を少し上向きに変えて、この先の海に直接行かないようにしてあります。噴煙には塩酸ガスが含まれているので海水に直接混じると塩酸になってしまう可能性がありますが、大気中であればガスの状態で拡散します)

 写真にはまた、ロケットを格納する(移動式の)シェルタールーム、周りを囲むコの字型の土堤(固体燃料の万一の時のために設置されている)もみえます。輸送された固体ロケットをそのままの姿勢で試験装置に置くことができ、準備の作業性やロケットモータの保温等のためのシェルタールームの構造などにもメリットがあります。
 このようにロケットの地上での燃焼試験であれば(上方に発射するわけではないので)排気ガスを横に噴射するという方式にも色々メリットがある、という例です。この試験場は種子島宇宙センター開設直後の1971年からだいたいこの構造のままで使用されています。(下流の噴煙の偏向部は固体ロケットモータが大型化した1987年から)

(上記写真)ミューロケット発射管制室
イプシロンロケット発射管制室
イプシロンロケット発射管制室

竹崎固体ロケット燃焼試験場(1枚目はH-Ⅱ開発時のものでロケットモータ後方の建造物は現在はありません)

内之浦宇宙空間観測所全景

竹崎固体ロケット燃焼試験時の噴煙

これで、大体のネタが尽きてきましたが、もう少し考えたいと思っています。

〔出展元〕
■引用文献;
長尾隆治(2016年)「ロケット発射場の施設,インフラ」『土木技術』第71巻,2016年2月号,p.12~16,理工図書(株)
■写真・イラスト出展元:
JAXA,<http://www.jaxa.jp/>,2018年5月31日アクセス

長尾隆治
執筆者
取締役 技師長長尾隆治