宇宙こぼれ話

丹尾 Space Development Episode 4

宇宙観光旅行用ガイドブックの紹介

―Michel van Pelt著―
「Space Tourism : Adventures in Earth Orbit and Beyond」

 最新の宇宙の観測結果から、宇宙が誕生したのは137億プラスマイナス2億年前と推定されている。地球を含む太陽系が誕生したのは、46億年前。地球上の生命の誕生は、38~40億年前。DNA分析結果によると、この地球上のすべての生命体は、たった一つの細胞から現在の数千万種の生命体に分岐、進化したそうだ。となるとこの世に存在する生命体はすべて親戚ということになる。自然と私たちを一体と考える日本人の自然観は、案外本質的というかDNAにもとづいているかもしれない。

 さて、我々人間を含む生命体の今後であるが、当然、太陽に大きく依存している。太陽は永遠に燃え続けると思いきや、寿命は約100億年。燃料の水素が燃えてヘリウムとなり、水素が欠乏してくると地球軌道までも飲み込むほど膨張した赤色巨星となる。さらにその中心核では、ヘルウムが燃え炭素と酸素に変わり最後には、中心部が地球ほどの大きさの白色矮星となってゆっくりと冷えて、その一生を終える。すでに46億年が過ぎているから太陽は年齢的には中年で、遅くとも50億年後までには、私たちは太陽系を出て行かなければならない。

 それより前に、恐竜が絶滅した理由といわれる、あるいは1994年7月に、木星にシューメーカー・レヴィ彗星が次々と衝突したのを目撃したごとく、さらには月面の多数の隕石の衝突痕にみるように、地球と小惑星や彗星との衝突が回避できなくなった時が、本格的に私たちが宇宙に出ていくきっかけになるかもしれない。
2005年11月、宇宙航空研究開発機構の小惑星探査機「はやぶさ」が、打ち上げから2年半をかけ3億キロ離れた小惑星「いとかわ」とランデブー・着陸し、サンプルの回収を試みたが、この世界でも初めての、遠く離れた小惑星とランデブー・着陸する技術は、将来、衝突が予想される小惑星や彗星を、地球と衝突する軌道から離脱させる際には、無くてはならない技術だと思う。

 むろんそれより前に人口の増大や、地球の温暖化や、あってほしくないが核による汚染などの理由で新天地を求め月や火星や人工のスペースコロニーに進出することが考えられる。もっと近い将来計画としては、米国は現在開発中の国際宇宙ステーション(ISS)計画の次の新宇宙探査計画として月や火星に人を送る計画を進めようとしている。

 ところですぐにでも宇宙に、それも観光旅行に出かけたいという民間人がここ数年急速に増えてきている。その理由の一つは、2001年1月のアメリカ人デニス・チトー氏及び2002年4月の南アフリカのマーク・シャトルワース氏の2人の民間人が、ロシアのソユーズ・ロケットによりISSへの滞在を実現したことにある。本書が書かれた後の昨年10月、3人目のやはりアメリカの民間人グレック・オルセン氏によりISSへの10日間の宇宙旅行が行われ、さらに4人目として日本人のベンチャー起業家榎本大輔氏の飛行が予定されている。

 二つ目は、アメリカの著名な革新的航空機設計家バート・ルタン氏が率いるチームによるXプライズ・トロフィーと副賞の1000万ドルの獲得である。Xプライズとは、非営利団体のXプライズ財団により宇宙往還を初めて果たした民間のチームに授与される賞である。その条件は、同一機体で、2週間以内に2回、3名(2名分は重しでも可)を搭載し打ち上げ、高度100キロ以上を弾道飛行し安全に着陸すること。ルタン氏の設計したスペースシップワンとその母機ホワイトナイトは、2004年9月29日と10月4日にこの条件を満たした飛行を行った。この技術をもとに、商業ベースで宇宙観光旅行を企画する会社が現れている。高度100キロ以上を飛行している間が数分の弾道飛行であるが、一般の人々の宇宙旅行がいよいよ身近なものとなってきた。

 このタイミングに、これから宇宙観光旅行を考えている人へのガイドブックとなるのが本書である。著者のMichel van Pelt氏は、宇宙観光旅行用の再使用型スペースプレーンの開発を進めている航空宇宙エンジニアである。多くの書や資料、ウェブ・ページを参考にエンジニアらしく技術的に正確に、有人宇宙飛行の歴史や、宇宙観光旅行の準備、打上げ、軌道上とその楽しみ方、帰還、着陸、そして費用や安全などについて、一般に向けて詳しくかつ想像豊かに書いている。宇宙観光旅行を目指す人は、本書を一読した上で搭乗予約をすることをお薦めする。

注記

  • 1.本稿は、Michel van Pelt著「Space Tourism : Adventures in Earth Orbit and Beyond」の紹介記事として丸善発行の「學鐙2006年春号」に掲載されたものです。

  • 2.「はやぶさ」は、2010年6月に地球に帰還しカプセルを分離。カプセルの回収に成功し、その中から「いとかわ」由来の物質を回収しています。世界初の快挙です。

  • 3.ベンチャー起業家榎本大輔氏は、搭乗前の検査で不合格となりその飛行は実現できませんでした。

  • 4.現在商業ベースでスペースシップ2計画が進んでいます。乗客一人20万ドルで、パイロット2名、乗客6名計8名を載せて高度110キロまで打ち上げ、全2時間の飛行のうち約5分間の無重力体験ができる計画です。全世界から日本人を含む約500名以上の予約があるそうです。

丹尾 新治

丹尾新治
執筆者
元社長丹尾新治