宇宙こぼれ話

大倉 第2回 偏芯型「多目的避雷塔」

偏芯型「多目的避雷塔」

 種子島宇宙センターから打上げるH-ⅡAロケット/H-ⅡBロケットの打上げ直後の映像の中に付図―1の如く必ず2本の赤白に塗装された鉄塔が映し出されているいるのにお気づきのことと思います。

H-ⅡAロケットの打上げ 移動発射台設備(ML)

 この鉄塔の正式名称は「多目的避雷塔」と言い、種子島宇宙センターに2つある射座にそれぞれ2本づつ備えられています。
 この2本の避雷塔は、機体が据え付けられている「移動発射台設備(ML:Mobile Launcher)」のアンビリカルマスト先端に取り付けられている2本の避雷針(付図―2参照)と合わせて計4本の避雷設備で、射座に搬出された後の急激な天候の変化に伴う襲雷(特に直撃雷)からH-ⅡA/Bロケットを保護しようとするものです。
 ところで、これ等「多目的避雷塔」は付図―3に示すように偏心型の塔であることに気付かれた方も多いのではないでしょうか。
 事実、付図―4に示す様に、約5mの最下部正方形の構造部材から上方に向かうに従いロケットに近い

編心型避雷塔 平面配置図

 カドに向って構造部材がせり上がり、偏心構造の塔となっています。
 それでは、何故この様な偏心構造の塔としたかですが、その理由は以下の通りです。

 ロケットの打上げに際しましては、飛行安全の観点から、ロケットの飛行経路監視をすることが義務づけられており、その監視は、打上げ直前から始まり、ロケットの関連機器と地上局の交信で行われるほか、打上げ直後は目視でも行われます。
 従いまして、いかなる設備も、この機能を損なうことがあってはならず、この通信性、可視性を確保するために、ロケットの関連機器と追跡管制を行う地上局の「宇宙が丘」、「中ノ山」(現在は運用を終了している。)、「野木」、「増田」の各テレメータ・ステーションとは途中に干渉物がない様に配置しなければなりません。ところが、これ等「多目的避雷塔」を現状の射座位置を考慮して据付け位置を考えた時、塔の形状を通常の対称形状とすると上記のロケットと地上局を結ぶ直線と干渉するか、乃至は干渉しないまでも極近傍を通過することが判明しました。そこで考案したのが偏芯構造の鉄塔です。
 又、最近の避雷性能評価は従来の「角度法」ではなく「回転球体法」を適用するのが一般的ですが、付図―5に示しますように若干(約1m~2m)ではありますが、塔を偏心構造とすることにより塔の高さを低くすることができると云うこともあります。

偏心構造の塔と対象構造の塔の必要高さの比較

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 尚、参考までに射座において、直撃雷からロケットを保護する諸外国の避雷設備の例を(何れも機体の開発段階の写真ですが、実機の場合もこれ等避雷設備は変更されていません。)付図―6及び付図―7に示しました。(付図―6は、米国アトラスーVの射座のもので、付図―7は、欧州ギアナのアリアンーVの射座のものです。)
 これ等の避雷設備を見ると日本のそれと異なりますが、それは避雷の考え方が日本と外国と異なるからです。その説明は、何れ改めて行いたいと思います。

米国アトラスーVの避雷設備 欧州アリアンーVの避雷設備
大倉廣高
執筆者
元技師長大倉廣高