宇宙こぼれ話

長尾 第6回 ロケット発射場の話(6)

「ロケット発射場の話(6)」

4. 射場施設・装置の特徴

 今回からは、日本の発射場を中心に、海外の例も交えて発射場の特徴的なところについて触れてみたいと思います。

4-1発射台・射点
 一般的にロケットの「発射台/射点」の形態(方式)は大別して、固定発射台方式と移動発射台方式があり、ロケットの組立・整備方式と合わせて種々の形態があります。

 中~大型ロケットでは、まず特徴的な整備方式として、旧ソ連/ロシアの方式があります(サイロから打ち上げるタイプを除く)。これは、ロケットの人工衛星・宇宙船組付けまで含めて横置き状態で完成させ、射点の発射台に移動して「起立」し、液体推進剤を注入し打ち上げる方式です。基本的に液体燃料ロケットには固体燃料ロケット(ロケットの重量の大半を占める推進剤を詰めたままで取扱う)を組合せて使用しないロシア特有の方式といえます(ロシアが固体ロケットを全く使ってないわけではなくミサイルあるいは転用宇宙ロケットとしては使っている)。この方式の場合、組立点検場所が低い建屋で済み、かつ、射点部分の機能は発射に必要な最小限のものだけにすることができるメリットがあります。ただし、旧ソ連が米国のスペースシャトルに対抗して(ブラン宇宙船を一度だけ)打ち上げた「エネルギア」ロケットはこの方式の最大のものですが、この位大きくて複雑な構造のロケットだと移動装置や射点側の装置も大規模になりました。なお、最近よく話題となっている米国の民間開発のファルコンロケットやアンタレスロケットはこの方式を採用して低コスト化に寄与していると言われています。また、スペースシャトルが退役した現在米国最大のロケットであるデルタ4ヘビーは固体ブースターを使わない構成になっていて、人工衛星以外を横置きで組立てから射点に移動して起立する方式を採用しています。

●ゼニットロケットの射点への移動

●ゼニットロケットの射点への移動

→  起立

→ 起立

●エネルギアロケットの移動開始

●エネルギアロケットの移動開始

→ 射点到着

→ 射点到着

→   射点起立

→ 射点起立

射点全景

射点全景

●ファルコン9ロケット組立場内
→  射点へ移動(写真は衛星部分無し)
→ 射点で起立中

●ファルコン9ロケット組立場内 → 射点へ移動(写真は衛星部分無し)→ 射点で起立中

射点起立状態

射点起立状態

→    発射時の状態

→ 発射時の状態

(射点へ移動する装置単体 )

(射点へ移動する装置単体 )

●アンタレスロケット 射点へ移動

●アンタレスロケット 射点へ移動

→ 射点で起立

→ 射点で起立

●デルタ4ヘビーロケット射点へ移動

●デルタ4ヘビーロケット射点へ移動

→ 射点で起立

→ 射点で起立

 その他の中大型ロケットは、いずれにしても発射台にロケットを下から順番に積み上げて組み立てた上で、点検整備して打ち上げます。組立整備場所がそのまま射点になるか別の所にするかは、以前は(旧ソ連以外)射点で組立て、そこで打ち上げる「固定発射台」方式が主流でした。ただし1960年代においても月へ人間を送り込んだサターンVロケットや大型化したタイタンロケットは、組立棟から離れた射点に移動する「移動発射台」方式でした。この方式は、サターンVロケットのように110mを超えるような巨大なものや連続する号機への対応などでメリットがあります。サターンVロケットの組立棟と射点はアポロ計画後スペースシャトルに利用され、約50年運用されました。
 その後、特に最近はこの移動方式が増える傾向(アリアン4型・V型、アトラスVなど)があります。

  • 米国ケープカナベラル発射場に並ぶ固定発射台射点

    米国ケープカナベラル発射場に並ぶ固定発射台射点

  • サターンロケット(上)スペースシャトル(下)移動発射台

    サターンロケット(上)
    スペースシャトル(下)移動発射台

大型タイタンロケット発射台の移動

大型タイタンロケット発射台の移動

 種子島宇宙センターの大崎射場の場合も中型ロケットは固定発射台、大型ロケットでは移動発射台の方式が採用されました。中型ロケットでは「移動整備塔」がロケットの組立て・点検設備時には発射台の位置にあり、打上げ当日に、レール走行で100mほど発射台から退避しました。「整備塔は約3000トンありました。[1]」これに対し、H2A/H2Bロケットの発射台は打上げ当日に組立棟から500mくらい離れた射点に移動します(こぼれ話第1回ロケット発射場の話を参照)。「H2Bでは1100トンの発射台に(液体推進剤の入ってない)370トンのロケットが乗り、それらを各56個の多重輪樹脂タイヤ式運搬台車2台の上に乗せて、時速2kmで走行し、4つの台座(足)で射点に「置かれ」ます。(下記写真)
  スペースシャトル(上記写真)では、4190トンの発射台に1260トンのロケットを乗せて時速1.6kmで5.5又は6.8km移動し、台座は6つありました。射点で充填される液体推進剤の量はH2Bロケットの194トンに対して770トンでそれぞれ重さ約4倍の規模になっています。[1]

中型ロケット発射場(固定発射台方式) 

中型ロケット発射場(固定発射台方式) 

大型ロケット発射場の移動発射台の運搬状況

大型ロケット発射場の移動発射台の運搬状況

少し長くなりましたので今回はこの辺りで切りまして、次回は内之浦発射場(+α)に移ります。


〔出展元〕
■引用;
 [1] 長尾隆治「ロケット発射場の施設,インフラ」『土木技術』第71巻,2016年2月号,p.10~11,理工図書(株)
■写真出展元:
・Vassili Petrovitch,<http://www.buran-energia.com>,2017年2月28日アクセス
・SPACEX,<http://www.spacex.com/news>, 2017年2月28日アクセス
・i-mart,<http://www.imart.co.jp/space-roket-news.html>, 2017年2月28日アクセス
・NASA,<https://www.nasa.gov/>,2017年2月28日アクセス
・JAXA,<http://www.jaxa.jp/>,2017年2月28日アクセス

長尾隆治
執筆者
取締役 技師長長尾隆治