宇宙こぼれ話

丹尾 Space Development Episode 1

ポール・ゴーギャン作:一枚の絵
「私たちはどこから来たのか?
 私たちはなにものなのか?
 私たちはどこにいくのか?」

ポール・ゴーギャン
ポール・ゴーギャン作
「私たちはどこから来たのか? 私たちはなにものなのか? 私たちはどこにいくのか?」

 この絵はポール・ゴーギャンが1897から98年にかけて、今から110年ほど前にタヒチで描いた絵です。現在、アメリカ東海岸のボストン美術館(Museum of Fine Arts, Boston)に展示されています。2年前、皇居竹橋近くの東京国立近代美術館でこの絵を中心にゴーギャン展が開催され、その際、ご覧になられた方もおられるでしょう。ゴーギャン49歳のとき、亡くなる5年前に描いた作品で、縦1.39メーター、横3.74メーターのゴーギャンの作品の中でも終生の大作といわれています。

 絵の右下に赤ん坊が描かれています。その隣では女性が座り込んで何か思いにふけっているように見えます。真ん中には青年がまさに果実を取ろうとしています。中央奥には仏像が描かれ、その左側には成人した女性が、一番左端には老婆が描かれています。この絵は、人が生まれてから老人になるまでの一生を右から左にかけて描いています。この絵についてゴーギャンは友人に宛てた手紙の中で次のように書いています。「私は12月に死ぬつもりだった。絶えず念頭にあった大作を描こうと思った。一切モデルなしで、結び目だらけのざらざらした小麦粉袋のキャンパスを使って、一気に描いた。だから、見かけはとても粗っぽい。・・・・・」

ポール・ゴーギャン
左上コーナーに書かれた作品題名

この絵が有名なのは、絵とその寓意と題名にあります。絵の左上コーナーの金色の下地に

    「私たちはどこから来たのか?
    私たちはなにものなのか?
    私たちはどこにいくのか?」


という意味の題名がフランス語で書かれています。

 この題名は、私たちへの根源的な問いかけとして宇宙物理学者の間でも有名です。私がこの絵を知ったのも、いまから40年ほど前、日本の宇宙物理学者への新聞のインタビュー記事を読んだからです。物理学者のお名前は忘れてしまいましたが、その中で「宇宙の仕事をしてきて、大変幸せだった。なぜなら、この問いかけに対する答えを知ることができたから」と大筋でそう語っておられました。残念ながら答えそのものについては、記事の中には書かれていなかったと記憶しています。

 長い間、宇宙開発の仕事をしてきて、多くの人が宇宙に大変関心を示すことを経験から知っています。もちろんそうでない方もおられます。この問いかけに答えることは、私たちと宇宙との根源的なつながりを理解することになるのではと考えています。関心を持っている方はもちろん、今までそうでなかった方も宇宙に関心をもつ機会になるのではと期待しています。なぜなら私たちは、自身に関係するものには、常に関心を示すからです。

 時たま宇宙開発について、お話をする機会があります。この絵とその問いかけについてお話をし、次のような答えを試みています。

  • 私たちはどこから来たのか?
  •   私たちは137億年のときをかけて宇宙から来ました。
  • 私たちはなにものなのか?
  •   私たちは知性をもつ星の子供です。
  • 私たちはどこへ行くのか?
  •   私たちはやがて宇宙に帰ります。

 ここでの知性とは、言語を持つ事により世代を超えて知識を共有し、過去を理解し、将来を予測し、現在を変えるあるいは変えないでおくことのできる能力と考えています。

写真の絵は、筆者がボストン美術館で撮影したものです。ボストン美術館では、フラッシュを使用しなければ作品の撮影が可能です。

2011.8.24 丹尾 新治

丹尾新治
執筆者
元社長丹尾新治