宇宙こぼれ話

虎野 第24回 宇宙開発の裏方話とSF小説

 これまでの私の宇宙こぼれ話は技術的ないわば表側の話がほとんどでした。今回は、宇宙開発の裏方話をご披露します。

 私が30歳頃にそれまでの種子島宇宙センターの現場勤務から東京の本社総務部の企画調整課(現場の真反対)に配属されました。この時のお話です。
 企画調整課の業務のほんの一つに国会における質疑応答用の回答案、いわゆる国会想定問答(*)を作ることがありました。もちろん、国会における議員からの質問取りとその回答案作りはお役人の仕事ですが、実際には下請けに出されることが結構あります。

(*)国会議員の質問をあらかじめ入手し大臣、局長等用の回答案を作るというもの。

 当時のJAXA(NASDA:宇宙開発事業団)を監督する官庁は、科学技術庁、運輸省、郵政省の三つでした。この3省庁が監督する理由は次の通りです。

科学技術庁:まさしく宇宙開発のロケットや人工衛星、その他の関連技術を管轄する役所でした(現在は文部科学省)。
運輸省:ロケット打上げ時の安全確保のための航空管制や船の航路管制で関係がありました(現在は国土交通省)。
郵政省:ロケットも人工衛星も多くの周波数の電波を利用しており、これを監理していたのが郵政省でした(現在は総務省)。

 つまり、この三つの省庁への宇宙関連の質問の多くは宇宙開発事業団の総務部企画調整課に回答案作成が回ってくるのです。

 当時私は世間知らずで、まさか国会での質疑応答があらかじめ設定されていた(いわゆる、やらせ以外の何物でもない)とは、驚愕しました。言われてみれば、回答する大臣が下を向いて書類をめくって読んだり、お付きの人から読むページを教えてもらったりするシーンをテレビの国会中継やニュースでよく見ます。もっとも、想定問答以外の質問をする議員も時々いらっしゃったので、その場合は本音、且つ、即興的なので、見ていてやり取りが面白いですね。
 そういえば、この間、国会中継を見ていると、「その御質問はあらかじめうかがっていませんでしたのでお答えできかねます」と答弁していた大臣がいましたね。この回答は頂けません。本来なら質問の事前通告もやめるべきだと思うのですがね。

 国会想定問答以外には予算と実行との違いが面白かったものがありました。これから私が言うことがすべての予算に当てはまるとは思いませんが、似通ったことがあるような気がしてなりません。

 一つの例として特殊法人(当時の宇宙開発事業団もその一つ)の機構定員(組織の構成とそこに配置される定員)があります。組織については、国に届け出る必要がある部分と特殊法人(今で言う、独立行政法人)内で実行できる部分があり、機構(組織の構成)については予算との相違は殆ど無かったのですが、定員についてはけっこうな相違がありました。それは、必要な業務に対して人員配置がアンバランス(殆どが不足)だったからです。そのため、当時は常に予算定員より多くの職員を抱えていました。今もそうでしょうが、予算が実行に追いついていないのです。そのため、予算用の定員表と実行(実際)の定員表の二つがあり、用途によって使い分けていました。こんな無駄なことをしないで、一致させるべきだとは思いましたが、種々の制約でそのままとなっていました。
 給与に関しても一つ。私が受験したときの宇宙開発事業団の募集案内には、月収5万円となっていましたが、入社した時には3万円程度でした。その差について調べてみると5万円と言うのは予算要求が認められればの話で、そんなには認めてもらえなかったからだそうです。大学の同期で私立高校の先生になった人がいて、彼の給料は7万円でした。私も教員資格を取得していたので、先生になればよかったと思ったものでした。

 もう一つは技術部門に配属されていたころの予算要求についてです。例として挙げたいのは、ロケットの酸化剤である液体酸素(LOX:Liquid Oxygen)の予算要求量です。1975年当時、私が機械系出身であったことからロケットの打上げに必要な液体酸素の量を算出してくれと頼まれた時です。その前年度までの予算要求量は実際の使用量とあまりにもかけ離れていました。
 私は、実際のロケットのタンクの容量や地上設備などのデータ、運用時の蒸発量等から実際に近い量を要求しようとしたのですが、前例主義の役所にその違いを理解してもらうのに苦労した記憶があります。
 想像するに、かつての予算担当者(技術系ではなかったと思います)は金額ありきでその額に収めるために液体酸素の量を調整したのでしょう。このようなことから予算は捻じ曲げられていくのだと思いました。
 以上の話は少しでも国の予算にかかわった方はお分かりになると思います。
 あまり書くとお叱りが来そうなので、この辺でこの件についての筆を置きます。

 次はSF小説のお話です。

 フレドリックブラウンという米国のSF小説家をご存じですか(ご存じの方は人生経験が豊富な方、つまりお年寄りでしょう。)。学生時代に愛読していましたが、当時収集した文庫本は、多くの引っ越しで処分したかどうかで持っていませんでした。
 このフレドリックブラウンのSF短編集(全4冊)が2019年に発売されたのを最近知って懐かしくて早速購入しました。

 その作品の中の好きなものの一つに「闘技場」があります。

 遠い未来、宇宙のある所で地球人と宇宙人がその宙域の覇権を争うための総決戦の寸前、超知的生命体が出現し、双方から一名ずつ出し合って決闘し勝った方の種族を残し、負けた方は宇宙から消え去るというルールを強制的に設定されました。その理由は総決戦を行うと最終的に勝った方の文明もいずれは滅びるためとのこと。
 その結果、知略を尽くして地球人の代表が勝つことになるのですが、同じ構成のものをその後二つ発見しました。

 一つはテレビ放送された鉄腕アトム(1960年代)です。この場合は両星域代表が一人ではなくそれにロボットが1体ずつでした。つまり、生物1、ロボット1の組み合わせでした。鉄腕アトムだからロボットが出てくるのは当然といえば当然の設定でしよう。もちろん勝ったのは地球側でしたが、その地球人が警察に追われる悪党だったのですが地球のために頑張ったのです。現実の世界に戻った時、その人間は警察に囲まれ逮捕されました。アトムは地球を救ったことを言えばいいのにと彼に言いましたが、その彼は格好いいセリフを言って捕まったのです。残念ながらそのセリフを覚えていません。

 もう一つはスタートレックです。当時は「宇宙大作戦」というタイトルでテレビ放送されていました。設定は同じでカーク船長と相手方の代表との一騎打ちでした。結果はカーク船長が黒色火薬を調合して勝つというものだったと記憶しています。
(これに関して昔の仲間が調べてくれて、「鉄腕アトムは『第97話 宇宙の対決の巻』で、スタートレックは『第18話 怪獣ゴーンとの対決』でどちらもニコ動にありました。鉄腕アトムの方は有料(私の調べでは数百円)でしたが、スタートレックは無料で見られます。」とのことです。)
 どちらもオリジナル番組として覚えているのは50代後半以降の方でしょう。
 藤子・F・不二雄さんの「ひとりぼっちの宇宙戦争」もこの構図ではないかと思われます。

 懐かしいことを思い出させてくれたフレドリックブラウンでした。他にもユニークで面白い短編が多いです。まだ読んだことのない方は読んでみてはいかがでしょう。奇抜なアイデアが満載です。自信を持ってお勧めします。

顧問 虎野吉彦
(2022年12月)

虎野吉彦
執筆者
元顧問虎野吉彦